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2024年2月号 月間「音楽の友」

2023年10月7日 ベヒシュタイン・セントラム東京ザール

尾池亜美 vn  X  飯野明日香 p

ベートーヴェン「フォルテピアノとヴァイオリンのためのソナタ全曲演奏会」のVol.2。コンサート当日が一周忌にあたる一柳慧《ScenesⅠ》を挟んでの「第2番」と「第9番《クロイツェル》」。ベートーヴェンの2曲でのフォルテピアノはドイツ製デュルケンのレプリカであり、一柳ではモダンピアノが用いられた。

たおやかで自然なアプローチのベートーヴェンである。尾池、飯野ともにしっかりした構成観に立脚しながら旋律や楽想を瑞々しく歌い、カンタービレも馥郁たる香りが立ち昇る。決して気負うことなく、楽譜を精緻に読み込み、共感とともに吐露する方向性はすがすがしい。

「第2番」は柔和な表情に根差し、しかも情景は刻々と変化する。軽やかな第1楽章、哀切を湛えた第2楽章、第3楽章は色彩豊かに推移した。

また「第9番《クロイツェル》」では、特徴的な主題をその都度精妙に変化させ、ときには憧憬を、ときには憂愁を、ときには激情を巧みに紡いでいく。緊張と弛緩のコントラストは絶妙で、その瞬間にしか生まれ得ない閃きが舞台上で丁々発止と繰り広げられる。華美な表現を控えめに、音楽的な情感、なによりベートーヴェンの真意を汲んだコンサートであった。

                                                                                                                        <真嶋雄大氏>

 

2023年8月号 月間「音楽の友」

飯野明日香 エラールの旅 第3回

 

福澤諭吉家伝承の1867年製エラールを用いた飯野明日香の全3回シリ-ズ「エラールの旅」の最終回。鷹羽や糀場、西村などの邦人作曲家の作品にリストやベートーヴェン、ラヴェルなどを織り込んだプログラムである。鷹羽の曲はアントワネット王妃やモーツァルトの転用があると思えば、仏革命の悲劇をクラスターなどで表現したユニークな作品。その古典的な組曲ふうの外観の音楽に、エラールの並行弦ならではの透明な響きがよく馴染む。《ラ・カンパネッラ》や「ワルトシュタイン・ソナタ」では楽器とのコンタクトの難しさを感じさせたが、後半は見事に弾きこなし、糀場の作品でもこの楽器独特の音色や響きの特性が縦横に発揮。委嘱作品で今回世界初演となる西村の新作は一聴して高度な技巧の求められる難曲ながら、手のうちに入った演奏で曲の魅力を堪能。この時代のピアノは音域により異なる音色を持つが、こうしたカラフルなサウンドはラヴェル〈悲しき鳥たち〉〈道化師の朝の歌〉でも生かされ、豊かなイメージに満ちた秀演となった。最後の一柳の《ファンタジア》。飯野の研ぎ澄まされたソノリティに対する感性とエラールによって、曲のもつ艶と香りが増幅されて新鮮だった。

 

                    那須田 務

会場=サントリーホール〈小〉/出演=青島広志(ナヴィゲーター)/曲目=鷹羽弘晃《マリー・アントワネットの音楽小箱》、糀場富美子《白のエピソード》、西村朗《極楽鳥たちへの3つのエチュード》(世界初演)、一柳慧《左手のピアノのためのファンタジア》、他

2023年8月号 月間「ムジカノーヴァ」

コンサート「エラールの旅(全3回)」には主役が3本立っている。フランスの楽器「エラール」、ピアニスト・飯野明日香、現代の邦人作品(毎回委嘱作品の初演奏あり)。その第3回となるこの日、プログラムは作曲家・青島広志さんの絶妙なトークとインタビューで進んでいく。

前半は、鷹羽弘晃《マリー・アントワネットの音楽小箱》から始まる。モーツァルトやベートーヴェンを意識した少し斜めから見つめた玉手箱のようだ。次のリスト《ラ・カンパネッラ》あたりまではエラールが共鳴してこない。彼女も弾きにくそうで、強気で押し込んでいく気配も感じさせる。前半最後の曲はベートーヴェン《ピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」》で、彼女の表現上の特性を濃く反映させた演奏だった。

後半は糀場富美子《白のエピソード》(2019年委嘱作品)から始まるが、ここで飯野さんは別人のような鋭利な感受性を見せてくる。画家・藤田嗣治の白色とエラールをイメージした曲とのことだが、見事に音が浮き立ってくる。現代でも新しい音だ。そして圧巻の、西村朗《極楽鳥たちへの3つのエチュード》(2023年委嘱作品・世界初演)。パプアニューギニアの極楽鳥の3つの求愛の様が、〈Ⅰ.Singing(歌)〉〈Ⅱ.Form(姿)〉〈Ⅲ.Dancing(踊り)〉の3曲で構成されている。いわゆる演奏上、難曲の部類に入るが飯野さんは凄かった。全身毛羽立つような殺気を漂わせて、この「種の保存」のための極限の求愛行動に同化していくようだった。ここまでくると楽器のことは聴き手の意識に入ってこない。熱を冷ますかのように、次のラヴェル《鏡》よりの〈悲しき鳥たち〉〈道化師の朝の歌〉が、聴衆を現実に連れ戻す。最後は一柳慧《左手のピアノのためのファンタジア》、ピアニスト・舘野泉氏からの委嘱作品である。気を衒(てら)うことのない、まっすぐに「ひとの生」を感じさせる。曲だ。ここでは作品自体が最上階に浮き出てきた。(5月20日、サントリーホール・ブルーローズ)

 

                    時 幹雄

2023年7月号 月間「ショパン」

飯野明日香 エラールの旅 第3回

エラールという楽器

「西村朗の世界初演曲を好演」

 

福澤諭吉一族に伝承された1867年制作のエラール・ピアノ(現在はサントリーホール所有)を用いた飯野明日香のリサイタル「エラールの旅」、第3回の今回が最終回。大政奉還の年に作られたこのピアノ、外観が瀟洒で、低音の鳴りが良く、中高音域は独特な銀色の音色をもつ。プログラム前半、最初は鷹羽弘晃のバロック・古典・現代のスタイルを自在に往還する(マリー・アントワネットの音楽小箱)から4曲。元はチェンバロ曲だけど自然に響く。次はリスト《ラ・カンパネラ》にベートーヴェンのワルトシュタイン・ソナタ。同音連打の頻発する曲が続いて興味深く聴いた。後半第1曲は糀場富美子《白のエピソード》の再演。特に中間部で楽器特有の音色が良く生かされていた。続く西村朗《極楽鳥たちへの3つのエチュード》(委嘱作品・世界初演)は簡潔なソナタを思わせる均整感があって演奏効果にも富む佳曲。第1曲冒頭のトリルはドビュッシー《喜びの島》へのオマージュか。コンクール向きの現代曲としても要注目だ。さらにラヴェル《鏡》から〈悲しき鳥たち〉〈道化師の朝の歌〉を好演、最後は追悼演奏を兼ねて一柳慧《左手のピアノのためのファンタジア》。

アンコールはエラール解散の年1960年に作曲された曲としてケージ《ドリーム》。青島広志のナビゲーターは、演奏者にゲストの作曲家達を時に鋭くきわどく突っ込んで笑いで解決、練達の芸でした。

(5月20日、サントリーホール・ブルーローズ)

(高久 暁)

2023年7月号 月間「音楽現代」

飯野明日香 エラールの旅 第3回

「エラールという楽器」

 

近現代作品に意欲的に取り組むピアニスト、飯野明日香のシリーズ「エラールの旅」(全3回)の最終回。本リサイタルは、福澤諭吉の孫・進太郎がパリで購入した1867年製のエラール社のピアノ(サントリーホール所蔵)を使用し、1777年から1960年までの長きに渡り楽器を製作してきたエラール・ピアノの軌跡を辿るもの。連打を可能にした「ダブルエスケ-プメント」の発明などは実に興味深い。飯野の発案で、ピアノの変遷と同時に音楽の歴史、社会と音楽や楽器のあり方の理解のために青島広志をナビゲーターとして起用。また現代そして未来へ、音楽を届け続ける楽器であることの証明として、西村朗氏の委嘱作品「極楽鳥たちへの3つのエチュード」や21世紀の作品もプログラミングされた。しかしこの企画、飯野の繊細な演奏あってのもので、さまざまな作品の魅力をエラールというパレットで色彩豊かに描いてくれた。(5月20日、サントリーホール・ブルーローズ)

                                               (福田 滋)

2023年5月号 月刊「音楽の友」

Parfum du Futur vol.23 エラールという楽器

2022年8月号 月間「音楽現代」

飯野明日香 室内楽シリーズ

“L’Espace”Vol.5 with 宮谷理香

 

東京藝術大学ピアノ科を経て、パリ、ブリュッセルと研鑽を積んだ飯野明日香は現代音楽を中心とした幅広い活動を展開、この室内楽シリーズの節目にあたり、以前から尊敬をしていたピアニスト宮谷理香をゲストに迎えた。2人の出会いは演奏連盟創立50周年記念コンサートに遡り、すぐに意気投合し将来の共演を誓ったという。2台のピアノによるシャブリエの「ロマンティックなワルツ第1番」で色彩豊かにスタートすると、宮谷のソロ、ショパン「マズルカ作品17」は流石の充実ぶり。デュオに戻り、モシュコフスキー、インファンテ、ルトスワフスキーという異なる個性の作品を見事に際立たせる息の合った演奏を聴かせた。飯野のソロ、一柳慧「パガニーニ・パーソナル」は、特殊奏法の多い難曲を優れた音楽性で伝える。ストラヴィンスキー「火の鳥」では2台ピアノの可能性の限界に挑戦すれば、一転、「月の光」で会場は優しい静寂に包まれた。(5月21日、東京オペラシティ・リサイタルホール)

                   <福田滋氏>

2022年7月号 月刊「音楽の友」

5月21日・東京オペラシティリサイタルホール

     l’Espace vol.5 ゲスト:宮谷理香(p)                       

シャブリエ「3つのロマンティックなワルツ」から第1番、ショパン「マズルカ集」op.17、モシュコフスキ「《スペインのアルバム》第1番」「同第3番」、インファンテ「《アンダルシア舞曲第1番》《同第3番》」、ルトスワフスキ「パガニーニの主題による変奏曲」、一柳慧《パガニーニ・パーソナル》、メシアン《鳥のカタログ》から《モリヒバリ》、ストラヴィンスキー《火の鳥》(2台p版)

飯野の室内楽シリーズ第5回はショパン・コンクール入賞(1995年)の宮谷理香を招いてのデュオ。名人二人の演奏で楽しく聴いた。リサイタルホールでは二人の音量にはやや狭い。

宮谷のショパン「マズルカ集」0p.17はさすがだ。これがマズルカだ、という演奏でその民族性の表出やリズムの呼吸の巧みさは見事という他ない。オクターブ以上も離れた装飾音から入るときの呼吸がその都度異なるほど細やかな演奏、マズルカのリズムも一回ごとに異なる呼吸で聴かせる。

飯野はメシアンの《鳥のカタログ》の第6曲《モリヒバリ》を華麗に演じた。メシアンは彼女の掌中のものだ。音楽は情景(夜)と鳥の繰り返しだが、情景の場面でゆったりした和音の連なりに呼吸の間、時間の濃淡をもっと欲しかった。

ルトスワフスキと一柳慧のパガニーニを主題とした音楽は聴きどころだ。前者はパガニーニが華麗に舞い、一柳作品では、独自の音楽世界の中に取り込んでしまったパガニーニだ。これまで第2ピアノは一柳の演奏で聴いていたが、宮谷のピアニズムは当然だが一柳以上にクリアだ。

圧巻はストラヴィンスキー《火の鳥》。2015年にワストルが編曲した最新のピアノ2台版は、技巧的には最高度のテクニックを要する。二人のピアノ技巧が火花を散らして、会場を圧倒した。〈カスチェイの踊り〉はオーケストラ並みの迫力があったといっても過言ではない。

<佐野光司氏>

2022年7月号 月刊「ショパン」

飯野明日香 室内楽シリーズ「l’Espace vol.5」

2021年8月号 月刊「ショパン」

飯野明日香  Parfum de Futur vol.21「新たな出会い」

2021年8月号 月刊「ムジカノーヴァ」

飯野明日香 Parfum du Futur Vol.21 「新たな出会い」

東京藝術大学附属高校、同大学、パリ国立高等音楽院、ブリュッセル王立音楽院などで研鑽を積んだ飯野明日香は、洗足学園音楽大学、桐朋学園大学や母校の東京藝術大学で後進の指導にあたる傍ら、現代作品を含むユニークな演奏活動を活発に展開している。

「新たな出会い」という今回のリサイタルは、サントリーホール所蔵の福澤諭吉家伝承、1867年製エラール・ピアノを使用したシリーズ「エラールの旅」全3回の第2回を前半第1部に、後半第2部では現代ピアノのスタインウェイを使って、日本の伝統的歌によるピアノ作品集「和の歌(わのか)」と題して、現在活躍中の10人の作曲家に委嘱した10曲の新作を演奏。

第1部では、ベルク《ピアノ・ソナタ》作品1、ベリオ《6つのアンコール》より〈水のピアノ〉〈芽〉〈大気のピアノ〉、ミュライユ《別離の鐘、微笑み》、2020年に委嘱した新実徳英《ロンターノC.~尺八とピアノのための》が披露された。第2部の邦人(挟間美帆、篠田昌伸、鈴木純明、小出稚子、川島素晴、金子仁美、法倉雅紀、川上統、山田武彦、平川加恵)10作品は2018~2019年に作られたもので、そのCD「和の歌」は昨年、音楽之友社「レコード芸術」特選盤になり、楽譜もショット・ミュージックから出版されている。

古典とモダン、二つのピアノを使い分けての演奏会は興味深いが、モダンピアノに慣れた耳には、最初のベルク作品ではドラマチックな色濃いロマン性が描き切れていないような気がした。しかし続くベリオやミュライユでは、楽器の響きに聴く側の耳も馴染んで、また前回の演奏会よりも奏者がエラールの良さを引き出す術に長けてきたこともあり、楽器のドライだが繊細な響きを生かしての淡々とした演奏により、モダン楽器とは異なるシンプルな光彩陸離の世界を味わえた。たとえば、カラー写真にはないモノクロ写真の鮮やかさ、といったらよいだろうか。第1部ラストは新実作品。タイトルの《ロンターノC.》は、伊語でロンターノ=遠くから、C.=cervo=鹿を意味するという。尺八の代表的楽曲「鹿の遠音」と古典ピアノをコラボさせた作品で、尺八演奏には旭日小綬章を受章した重鎮、琴古流尺八貴風会家元の三橋貴風氏を迎えた。森林の中の鹿たちの愛の営みが切なく美しく、変幻自在な風に乗って聞こえてきた。尺八とピアノのバランスが絶妙だった。第2部は、次から次へと色とりどりの力作が提示され、万華鏡を見ているような楽しさだった。日本の歌という親しみやすさ、土着感、懐かしさ、しみじみとした風情……などが感じられ、内部奏法はないものの楽器のボディーを使った奏法も面白かった。作品によってはグルーヴ感がもっとあってもよかった気はするが、各作曲家への誠実な対峙が感じられたピアノ演奏だった。(5月22日、サントリーホールブルーローズ〈小ホール〉)

〈雨宮さくら〉

2021年7月号 月刊「音楽の友」

飯野明日香 Parfum du Futur Vol.21 「新たな出会い」

  • 三橋貴風(尺八)●【第1部】「エラールの旅 1867年製、福澤諭吉家伝承のエラール・ピアノの調べ」:ベルク「ピアノ・ソナタ」、ベリオ《6つのアンコール》から〈水のピアノ〉〈大気のピアノ〉〈芽〉、ミュライユ《別離の鐘、微笑み》、新実徳英《ロンターノC.~尺八とピアノのための》【第2部】10名の日本人作曲家への委嘱作品による「和の歌(わのか)」

現代のピアノとの比較において、世紀を超える以前の製作楽器のひびきの「寸」の短さには如何ともし難いものがあるように感じるが、そのぶん、ある種朴訥さを湛えた「中声部」の(やや内にこもる)「木」のひびき、そして「高音部」の「金属的」といえる鈍(にび)色(いろ)の輝き、加えて「低声部」の(存外)「艶のある」ひびきの、いわば「三層」にわたるひびきの上に展開された冒頭ソナタでは、一種虚無性を内包するテーマが幅広い音域に展開されるが、ピアニストの表現の彫琢がこの「音色域」によって「色分け」されるようで(とくに高音域での「悲劇性」が脆弱に感じられるなど)、ソナタの総合における有機性の表現に若干の翳りが生じたように感じた。ベリオ作品では抑制ぎみのアーティキュレーションと中音域の音質が素晴らしく合致したようで、作品の正鵠と思われる即興性の繊細な気分の移ろい、憂愁さが十全に展開され、ミュライユ作品においても、ときとして出現する高音部の異質なひびきにある違和感を覚えたが、全体としては多彩で柔軟なひびきの重なりと混淆に、慟哭の情を聴いたように思った。

リサイタルの白眉は新実作品(委嘱作品)にもたらされたようだ。作曲家自身の解題によると、尺八の本曲中の「鹿の遠音(とおね)」(深山の雄鹿と雌鹿の呼び交わし)に由来する幽玄な精神性、さらにエラールの機能上、(左手がソステヌート効果の代用に取られる部分では)右手のみの(制約された音数の)ひびきが、尺八特有の変幻する繊細な音質が醸しだす玄妙な表情との絶妙な融合を成就して(筆者は尺八の無辺の広がりの表現効果に瞠目した)、作品の理想世界を現出したように感じた。

第二部は楽器が現代のフルコンサートに替わり、「日本の歌」を基にした委嘱作品の初演。ここでは作曲家と作品名を列挙する。挟間美帆の「コラール《からたちの花》メロディによる」、篠田昌伸《ゲートキーパー》、鈴木純明《いそいそパラフレーズ》、小出稚子《うさぎのダンス》、川島素晴《白河踊りメタモルフォーゼ》、金子仁美「日本の唱歌《雪》による変奏曲」、法倉雅紀《茜草指(あかねさす)第3番――独奏ピアノのための》、川上統《夕空の泉に》、山田武彦《七里ヶ浜の哀歌(ましろき富士の嶺)による変奏曲》、平川加恵《ずいずいFantasy》。強固な精神力をもって多彩を極める作品群に真摯に対峙するピアニストの集中力と表現のキャパシティの広さを特筆する。                                    

5月22日・サントリーホール ブルーローズ 〈石川 哲郎氏〉

2021年5月27日 読売新聞夕刊

飯野明日香  Parfum de Futur vol.21「新たな出会い」

2021年5月6.13日号 週刊新潮

飯野明日香  Parfum de Futur vol.21「新たな出会い」

2021年5月号 ぶらあぼ

飯野明日香  Parfum de Futur vol.21「新たな出会い」

2020年6月16日(火) 「日本経済新聞 朝刊」

2020年5月号 「月刊ぶらあぼ」

中止となりました。

2019年8月号 月刊「ムジカノーヴァ」

飯野明日香 ピアノリサイタル

東京藝術大学を卒業後、パリ国立高等音楽院ピアノ科とフォルテピアノ科を卒業し、さらにブリュッセル王立音楽院ピアノ科マスタ-コ-スを修了した飯野明日香は、活発な演奏活動のかたわら、洗足学園音楽大学、桐朋学園大学音楽学部、東京藝術大学附属音楽高校にて講師を務めている。
今回のリサイタルは、当ホ-ル所蔵の1867年エラ-ル製フォルテピアノを用いたシリ-ズ<エラ-ルの旅(全3回)>の第1回「エラ-ルの見たもの」。
福澤諭吉の孫がパリで購入し、その妻の福澤アクリヴィが愛奏した楽器である。そして、このピアノが生まれた頃の作品に始まり、しだいに現代に近づいたのち、この楽器のための委嘱作品が初演され、ドビュッシーで締めくくるという、興味深いプログラムが組まれた。
サン=サ-ンス《マズルカ第2番》《夜想曲「リスボンの夜」》、フォ-レ《夜想曲第6番》、プ-ランク《15の即興曲》よりの4曲での飯野は、タッチの安定に苦心しながらも、このエラ-ル・ピアノ独特の乾いた、しかし味わいのある音色を活かして歌いあげ、一方、軽快な場面では鋭いリズム感を発揮し、活気に富む節回しで聴かせる。メシアン《前奏曲》より3曲、湯浅譲二《2つのパストラ-ル》、武満徹《雨の樹 素描Ⅰ》、一柳慧《ピアノ・スペ-ス》は、フォルテピアノでの演奏とはいえ、不思議と違和感がない。現代のピアノとはニュアンスの異なる柔らかさを纏って、各曲が新鮮に響く。現代作品の演奏に定評のある飯野の、創造性豊かな読譜力、冴えた技巧、絶妙なペダリングが功を奏している。このエラ-ル・ピアノのために書かれた糀場富美子《白のエピソード》(世界初演)でも彼女は、卓越したセンスを発揮し、作曲者の意図に応える演奏を聴かせた。ドビュッシー《前奏曲集第1集》よりの4曲<ミンストレル><さえぎられたセレナ-ド><雪の上の足あと><西風の見たもの>も、この楽器の特性が味わえる選曲であり、面白味を含んだ魅力的な演奏だった。

(5月18日 サントリーホ-ル ブルーロ-ズ) <原 明美氏>

2019年8月号 月刊「ショパン」

飯野明日香ピアノ・リサイタル『エラ-ルの旅』 第1回『エラ-ルの見たもの』 「曲本来の魅力を味わう貴重な機会」

フランスの楽器エラ-ルを弾くシリ-ズ第1回は、1867年製の楽器で、飯野はその年以降の日仏の作品を演奏、音は実に自然で楽器の特徴を把握した表現で聴かせた。サン=サ-ンスの2曲、マズルカ第2番での温かみある音、弦がさざめくよう、《リスボンの夜》はまろやかに、減衰する音で紡がれる味、フォ-レの夜想曲第6番は気品漂う柔らかな音色で奏された。プ-ランクの《15の即興曲》より4曲、とりわけ第4曲では敏捷に、第15曲は波のような高まり、メシアンの《前奏曲集》よりの3曲、<鳩>では光彩を放ち、<悲しい風景のなかの恍惚の歌>は大胆に、<風に映る影>では明瞭かつ華麗であった。
邦人作品、湯浅譲二の《二つのパストラ-ル》は明快に、武満徹の《雨の樹 素描Ⅰ》での肌理細やかな織物、一柳慧の《ピアノ・スペ-ス》は雄弁に奏された。
委嘱新作、糀場富美子の《白のエピソード》(初演)は、楽器の特色を活かした3曲からなる作品で、飯野は生き生きと表現、第1曲ではアクセントや低音も効果的、第2曲での中音域での音のおしゃべりや終曲での沸き立つ奏楽も印象を残した。
ドビュッシーの《前奏曲集第1集》よりの4曲、<ミンストレル>は締まった音で機知に富み、<さえぎられたセレナ-ド>ではギターを想わせる音、中間部は朗々と奏でられた。<雪の上の足あと>での繊細さ、<西風の見たもの>での率直な弾奏も聴きものとなった。

(5月18日 サントリーホ-ル ブルーロ-ズ) <菅野泰彦氏>

2019年7月4日号 「週刊新潮」、2019年5月9日(木) 読売新聞 夕刊

飯野明日香 Le Parfum de Futur vol.19「エラールの旅」第1回「エラールの見たもの」

2019年5月号 月刊「ぶらあぼ」、2019年5月号 月刊「音楽の友」

飯野明日香 Le Parfum de Futur vol.19「エラールの旅」第1回「エラールの見たもの」

2018年12月1日発行 「最新版クラシック不滅の名盤1000」『レコ-ド芸術編』(CD:フランス・ナウ)

レコードの誕生から現在(2018年秋)まで、国内外を問わず、無数に発売されてきたクラシックのディスク(SP、LP、CD)の中から、極めつけの名盤として高く評価されてきているディスク1000点を、音楽評論家、浅里公三、満津岡信育両氏の監修により、『レコード芸術』編として選定、紹介したものです。映像作品および海賊版は選定の対象としていません。

タイトルのとおり、フランスの現在を象徴する12人の作曲家の小品集。小箱にきらめく宝石を集めたようだ。ブ-レ-ズやアミといった大家、ミュライユ、デュサパンといった中堅、マントヴァーニといった若手による作品が含まれている。堅苦しいアカデミズムとは一線を画し、すなおに楽しんでいる演奏スタイルに好感がもてる。とはいえ、兵(つわもの)たちによる難曲ぞろい。多様な音のできごとが仕込まれたブ-レ-ズ作品の華麗な走句、ゆったりとした動きのミュライユ作品での豊饒な音色、舞曲のステップを意識したペソン作品の小気味よい連打など、むずかしいパッセージも鮮やかな技巧で生き生きと表現され、舌を巻いた。現代音楽が苦手な人も楽しめそうだ。

<白石美雪氏>

2017年8月号 月刊「音楽現代」

飯野明日香 ユリシ-ズ弦楽四重奏団 スペシャル・コンサ-トwithフレンズ

クリストファー・スタ-クの《ウィンタ-・ミュージック》は美しい協和音を根本とし、かすれる音、きしむ音が乗せられていた。ベ-ト-ヴェンの弦楽五重奏曲の第1楽章には機敏な反応の良さ、突き進む流れに合奏の精緻さがあった。喜びに溢れつつ型破りなベ-ト-ヴェンらしさを聴かせた第2楽章、各奏者が音楽を驀進させた第3楽章に続き、第4楽章では会場に響く鳴りの良さに呑み込まれた。懐かしさを残しつつ対話があり語り合いが聞けた一柳慧の《インタ-スペ-ス》第3楽章に続き、ショスタコーヴィチのピアノ五重奏曲では、脳天を突かれたような飯野明日香のピアノにはちきれる音で応えるユリシ-ズのメンバ-にまず圧倒され、フ-ガでは折り重なる光の綾がやがて薄くくすみ枯れていく過程を聴いた。後半楽章では確かなアンサンブルを背景とした力強さに、ショスタコーヴィチの凄みを感じた。

(6月17日 神奈川県民ホ-ル小ホ-ル) <谷口昭弘氏>

2015年9月号 月刊「音楽現代」

飯野明日香 <第三夜>「ピアノの日」

2015年2月号 月刊「音楽の友」

「コンサート・ベストテン2014」に選出

2014年8月号 月刊「レコード芸術」

飯野明日香 Le Parfum de Futur vol.13「二つの響き」

2014年5月号 月刊「音楽の友」

飯野明日香 Le Parfum de Futur vol.13「二つの響き」

フォルテピアノと現代ピアノによる「2つの響き」のリサイタル。古典4曲、現代9曲という欲張ったプログラムだ。モーツァルト、ハイドン、シューベルト、ベートーヴェンはフォルテピアノで演奏。フォルテピアノの幽けき響き、やや鄙びた響き、そして早いパッセージでは玉を転がすような輝きを示した。モーツァルトはややロマンティックな演奏でインマゼールを想わせる。

現代曲になると魚が水を得たように躍動感に満ちた響きとなる。フォルテピアノでもそうだが、飯野の演奏の特徴は響きの美しさと素早く連動する音たちを実にクリアに出すことだ。タンギーの曲では鍵盤上を暴れ回るが如き凄い技を示す。ペソンの最高音部の連打で始まる曲など、眼(耳)を見張るような高音の美しさを見事に示した。荒々しさ、優しい響きの旋律、穏やかな気分、超絶的な技巧、それら全てが様々な曲の中でそれぞれ飛翔する。飯野は音色の濃淡、デュナーミクの漸次的、あるいは極端な変化など、明らかに表現が多彩になり、一歩前進した深みを増している。

(3月18日 東京文化会館〈小〉) 〈佐野光司氏〉

2013年5月号 月刊「音楽の友」

「今最も旬な日本人演奏家たち」

旬な音楽家として指揮者の山田和樹やピアニスト児玉桃はたぶん多くの人が挙げるだろうから、私は現代作品の演奏で最近CDでもあちこちで取り上げられたピアニスト、飯野明日香を挙げておきたい。飯野の魅力は多様な音色彩で演奏する技巧派で、クリアで澄んだ綺麗な音を出すことだ。解釈も深い。
高橋アキや木村かをりの次代を背負うピアニストであると確信している。

<佐野光司氏>

2012年2月号 月刊「音楽の友」

「コンサート・ベストテン2011」に選出

2012年1月号 月刊「音楽現代」

飯野明日香/一柳慧のピアノ音楽第一章

近現代の音楽史を総覧するテーマ性のあるプログラミングが魅力のピアニスト飯野明日香。今回は一柳慧のピアノ曲とそれを取り巻く幾つかの作品、つまりフェルドマン≪垂直の思考4≫のフラクタルな音色の拡がり、アダムズ≪中国の門≫のミニマリズム、ケージ≪かくて大地はふたたび≫のプリペアド、カウエル≪エオリアンハープ≫の美麗なる内部奏法、クラム≪マクロコスモス第2巻≫のグラフィカルな円形楽譜等を呼び水の如く巧みに配置。一柳曲は≪ピアノメディア≫の19世紀的解釈によるロマンティックで官能さえ薫る演奏が発想の転換で楽しめた。≪限りなき湧水≫、≪インメモリーオブジョンケージ≫、≪ピアノ音楽第2番≫、≪雲の表情Ⅹ≫等を上記曲群と関連して聴く面白み。そして、最後には一柳慧本人を奏者に迎えての2台ピアノ版≪パガニーニ・パーソナル≫の本人編曲初演。ピアニズムも最大に刺激する編曲で2台ピアノのレパートリー誕生。来年の企画にも期待大だ。

(10月9日 東京文化会館) 〈西耕一氏〉

2011年12月号 月刊「音楽の友」

一柳慧を中心に、フェルドマン、アダムズ、ケージ、カウエル、クラムなど、多彩なアメリカの顔ぶれを交えた11曲のリサイタル。飯野の音は従来から透明度が高いのが特徴だったが、今回はそれに深みと幅を増した。一柳≪限りなき湧水≫ (90)の第一音が鳴った瞬間に、その音の深さに惹き込まれた。きわめて技巧的であるだけでなく、音楽的にも非常に秀れた傑作だ。フェルドマンやアダムズは音の美で聴かせる。近年これほど美しいピアノの音は稀にしかない。飯野の成長というべきであろう。かつて針金のように強靱で厳しい音だったものが、幅と深みを増すことによって、音色が豊かになり、また一音一音が美しい連続となった。一柳≪雲の表情≫ (99)では、その曲の構成力を明確に示す演奏だった。もし音と音の間に、いま一つ間の取り方の余裕があれば、真に大輪の演奏となる。最後の、一柳と共演した2台ピアノの《パガニーニ・パーソナル》はマリンバ曲のピアノ版というより、もはやこれは新しい創作といえる。響き、音色の多彩な、しかもテクニカルな音楽となっている。今後ももっと弾かれてよい作品である。

(10月9日 東京文化会館〈小〉) 〈佐野光司氏〉

2011年2月号 月刊「音楽の友」

「コンサート・ベストテン2010」に選出

2011年1月号 月刊「音楽現代」

飯野明日香 le Parfum de Futur vol.8 la serie de recital de piano

パリやベルギーで学んだ飯野は、2005年からリサイタルシリーズを行い、フランスと日本の現代曲を中心に多角的で広がりのあるプログラミングを行っている。2010年に中島健蔵音楽賞も受賞。今回は「メシアンとその影響」と題しての会。ミュライユがメシアンを追悼して書いた《別離の鐘、微笑み》が幕開けを飾る。1920年代生まれの門下3人はブーレーズ《12のノタシオン》、シュトックハウゼン《ピアノ曲VとVIII》、ジョラス《ポストリュード》までメシアン門下の知性の結晶を聴く。35歳でパリ音楽院学長になったマントヴァーニ《明暗のための練習曲》、デュサパン《練習曲第2番》、委嘱初演は金子仁美《中世から》。音響陰影で描く風合は演奏共に見事!メシアンは《「幼子イエズスに注ぐ20のまなざし」よりVI、VII、VIII、X 》、《ポール・デュカスの墓のための小品》。確かな技術と力強いタッチ、音楽への熱い想いが溢れる真摯な演奏であった。

(9月23日 東京オペラシティリサイタルホール) 〈西耕一氏〉

2010年11月号 月刊「音楽の友」

飯野明日香のリサイタルは、いつもずっしりとした音の満腹感を覚える。それは単に曲数が多いという問題ではなく、演奏内容の濃さ、曲の面白さによるものだ。今回もメシアンを中心として、ミュライユ、ブーレーズ、シュトックハウゼン、そして金子仁美への委嘱曲等全10作品が演奏され、また聴く機会の少ないB・マントヴァーニ、P・デュサパンなど、楽しく聴かせた。飯野の演奏は音色彩ヘの細心な配慮を基本として、正確なタッチ、微細なニュアンス付け、デュナーミクの対比の大きさに特徴がある。メシアンの演奏は掌中のものとしており、最後の《20のまなざし》からの3曲はその超絶技巧の披露で聴き手を圧倒した。金子仁美《中世から》は冒頭の延々と下行和音的な音響に始まり、様々な音響場面を巧みに構成した優れた作品だ。マントヴァーニは若干35歳で本年8月にパリ音楽院の学長となった英才で、《明暗のための練習曲》は小曲だが今日的な瑞々しい感性の音楽である。

(9月23日 東京オペラシティ〈小〉) 〈佐野光司氏〉

2010年3月29日(月)「日本経済新聞」

現代音楽に貢献した「中島健蔵音楽賞」に幕

日本の現代音楽の振興に貢献してきた「中島健蔵音楽賞」が2009年度の第28回を最後に終了した。仏文学者で日中友好にも尽力した中島は、一方で音楽愛好家でもあり、音楽評論家の野村光一や吉田秀和らとのラジオでの音楽時評はクラシックファンに今も語り継がれている。1979年に他界すると夫人が私財をもとに基金を作り、82年度から賞を設立。作曲家、演奏家はもちろんサントリーホールを設立した佐治敬三ら、音楽文化に多大な貢献をした人物まで幅広く賞を贈ってきた。終了の要因は基金が底をついたことと、中島の遺志を継いだ運営委員の高齢化。今年80歳になる諸井誠運営委員長は「そのうちまた、新しい人たちが新しい賞を作ってくれるといい」と語る。今月発表された最後の受賞者は作曲家の中川俊郎、藤倉大、ピアニストの松山元、飯野明日香。加えて特別賞にグラフィックデザイナーの杉浦康平。レコードジャケットなどで現代音楽と深くかかわってきた杉浦は、この賞にも無報酬で表彰楯を提供してきた。最後にその楯を自ら受けることに。89年度に受賞した作曲家の西村朗は「選考委員を知ってびっくりした覚えがある。音楽の世界の本当の目利きが選ぶ賞だった」と振り返る。

2010年2月号 月刊「音楽の友」

「コンサート・ベストテン2009」に選出

2009年12月号 月刊「音楽の友」

飯野明日香は今日、現代音楽における若手ピアニストとして最も将来を嘱望される演奏家の一人。今回は8人の作曲家、13曲という盛りだくさんの贅沢な演奏会であったが、全体に阿修羅のように運動するピアノ・テクニックと、美しい響きの豊饒さに圧倒された。まず第1曲のティエリー・エスケシュ《二重の遊び》(01)において、響きのクリアな美しさと、素早い音運動への高度なテクニックで聴き手を惹きつける。2曲目は一変して湯浅譲二《静の時間》の音楽《内触角的宇宙1》(57)と、プログラムにも内容の対照性を強く持たせる。また一柳慧《雲の表情》からの3曲は、動・静・動の構成を成し、その音楽的時間を作るのに成功。委嘱初演の夏田昌和《ガムラフォニー2》は右手と左手にそれぞれ異なったガムランのリズムを奏させるという難解なもの。複雑なリズムが生み出すトータルな響きに特徴があり、後半のゆったりとした部分にガムラン音階的モティーフが浮き上がるところに面白みがある。しかし音楽の変化の過程にいま一つ多様化が欲しい。前半がやや単調になってしまうのだ。当夜の話題は今年京都賞のために来日するブーレーズ「ピアノ・ソナタ第3番」(57)の全曲演奏だ。全曲を演奏会でやった人は、おそらく日本では初めてか、もう一人いるかどうかではなかろうか。この曲はシュトックハウゼン「ピアノ曲XI」と並んで、戦後の音楽史に大きな影響を与えた作品であり、飯野は1月にシュトックハウゼンを演奏しているので、これで双方をやり遂げたことになる。ブーレーズの作品は当時を反映して点描的ではあるが、飯野は緊張を絶やすことなく音楽的持続を見事に作った。

(10月30日 東京オペラシティ〈小〉) 〈佐野光司氏〉

2009年4月号 月刊「音楽の友」

「メシアンとその周辺2」と題した飯野のリサイタルは、4曲のメシアンの他、武満徹、O・ナッセン、シュトックハウゼン、夏田昌和、一柳慧、ケージ等、全10曲を含むきわめて意欲的な演奏会であり、また彼女の技量の凄味に圧倒された一夜であった。最初のメシアン《鳥のカタログ》の《コウライウグイス》ではやや固さがあったが、《ロンド》を軽やかにこなしたあたりから本領を発揮し始めた。《リズムの4つのエチュード》の《火の島I、II》の難曲を、いとも安々とこなした技量は彼女の力量とし評価できる。彼女の演奏の特徴は一言で云えば、阿修羅のごとく鍵盤上を駆けめぐる音運動の圧倒的な迫力と、一方に正反対の静の音楽における微妙な音色彩の彩色の豊かさにある。例えば武満徹の《雨の樹 素描II》における多彩な色彩の陰翳の描出に成功しており、単なるテクニシャンではないことを証していた。それは夏田昌和の《波~壇の浦》やケージの《ある風景の中で》といった静の音楽における、限りなく美しい響きと繊細なニュアンスの描出においても云えよう。夏田の作品では、音たちは軽やかに舞うかのようであった。一方シュトックハウゼン《ピアノ曲11》や一柳の《タイム・シークエンス》では聴き手はただ圧倒的な音のシャワーを浴びたかのように降り注ぐ音たちに包まれた。最後のメシアンの《20の眼差し》の終曲は、音に深みも増し、唯々見事というしかない演奏であった。 飯野は前回より明らかに音楽的深みを増している。今後が楽しみなピアニストである。

(1月16日 すみだトリフォニー小ホール) 〈佐野光司氏〉

2008年8月号 月刊「音楽の友」

パリで長年研鑽を積んだ飯野明日香のピアノ・リサイタルを聴いた。メシアンの生誕100年を記念して、メシアンとその仲間たちといった内容で、デュティユー、ジョリヴェ、ブーレーズ、ミュライユ、ティエリ・エスケシュなどの全8曲が演奏された。 演奏の中身は非常に濃いもので、また技巧的に難解なもので埋まっていたのが、このピアニストの非凡な才能を示している。彼女の演奏の基本は、ダイナミズムの多様性と、多彩な音色彩ヘの配慮にある。従って「色聴覚」を持っていたメシアンの作品になると非常に活々と輝き、《鳥のカタログ》の中の1曲ではややテンポを遅めにとって、鳥と色彩を浮かせるように演奏していた。一方、ブーレーズの《アンシーズ》はまったくのヴィルトゥオジティを全開させた演奏で、聴き手を圧倒した。特に圧巻だったのは、最後のメシアン《幼子イエズスに注ぐ20のまなざし》の第10曲の演奏で、飯野の真価はこうした作品で最も発揮されるが、フレージングへのより深い洞察が加わると、より高みに達するピアニストだと思う。

(6月22日 JTアートホール・アフィニス) 〈佐野光司氏〉

2007年2月号 月刊「ショパン」

充実ぶりの窺える快演 飯野明日香ピアノリサイタル

飯野明日香は、東京藝大とパリ国立高等音楽院を卒業、ピアノ及び古楽の上級ディプロマも取得。ブリュッセル王立音楽院ピアノ科マスタ-コ-スにも
学んで修了。オルレアン20世紀ピアノ国際コンクールスペディダム賞、ブレスト国際ピアノコンクール第2位、U・F・A・M・国際音楽コンクール
室内楽部門第1位など、着実に実績を積み重ね、欧米各地で演奏会を行い、パリ・エコール・ノルマル音楽院他でクラス伴奏者も務めた。05年からは日本を拠点に活動している飯野の『柴田南雄・武満徹とその周辺』と題したリサイタルを聴く。
前半は柴田南雄の『4つのインヴェンションと4つのドゥ―ブル』より第1、2曲、武満徹の『ロマンス』『閉じた眼―瀧口修造の追憶に』『雨の樹 素描Ⅱ―
オリヴィエ・メシアンの追憶に』、柴田南雄の『インプロヴィゼーション第2』。後半はシュトックハウゼンの『ピアノ曲Ⅵ』。当然ながら、楽譜を見ながらの演奏。次に坂本龍一の『chanson』『Vivacescherzando』、佐藤聰明の『星の門』、メシアンの『幼子イエズスの20の眼差し』より『天使の眼差し』と『喜びの精霊の眼差し』という内容。アンコールはプ-ランクの『イタリア奇想曲』。戦後の日本を代表する作曲家・柴田南雄と武満徹が世を去って10年。いろいろな意味で対照的なふたりとその周辺の作品を、気力充実の快演で描出し、作品自体の世界と魅力に浸らせてくれた有意義な一夜であった。

(11月27日 ムジカ-サ) <横堀朱美氏>

2007年2月号 月刊「音楽の友」

「コンサート・ベストテン2006」に選出

2007年1月号 月刊「音楽の友」

現代ピアノ音楽の奏者にまた新鋭が現れた。「柴田南雄・武満徹とその周辺」の題したリサイタルで、タイトルの作曲家のほか、シュトックハウゼン、佐藤聰明、メシアンなど、現代曲を12曲盛り込んだ意欲的なリサイタルである。飯野明日香は経歴を見ると、パリ音楽院で学び、ヨーロッパ各地のコンクールに入賞して、2005年に帰国したばかりの俊英。これほど音楽の内容・様式の異なった作品を取り上げるのも珍しい。彼女の演奏で特筆すべきことは、そのテクニックの確かさと、音質のクリアな響きだろう。最後に演奏したメシアンの《幼子イエズスにそそぐ20のまなざし》からの2曲に、それは最も見事に現れていた。この演奏会で面白いのはシュトックハウゼンの歴史的な不確定性の作品《ピアノ曲XI》や、武満徹の最初期の《ロマンス》(1948)、坂本龍一の学生時代の曲など、演奏される機会の少ない曲を取り上げていたことだ。武満作品における演奏には、単に武満トーンをたゆたうように演ずることで満足することなく、いくぶんアグレッシブに弾くことで、武満に新たな光を当てたかに思えた。佐藤の《星の門》の演奏は、静謐な内容と、音の余韻の意味付け、そして緊張力の持続など、超絶技巧とは対極にある作品をも、そこに現出してみせた。柴田南雄の《インプロヴィゼーション第2》を優れた演奏で聴くのも初演以来である。またシュトックハウゼンの曲も、その後の音楽史を変えた意義ある作品だが、ここ数十年も取り上げるピアニストはいなかった。この問題作は、技巧だけでなく音楽創造の能力が奏者に要求されるためか、手を出すピアニストは限られている。それに挑戦するところに飯野の新しい感性と意気込みを感ずる。日本のピアニストは現代曲に武満を入れることで満足しているかにみえる。だが、柴田南雄・佐藤聰明など、ピアノ音楽としても魅力ある作品がまだほかに多くあることを知らせた演奏会であった。

(11月27日 ムジカーサ) 〈佐野光司氏〉

2005年12月号 月刊「ショパン」

知性とセンスに輝く飯野明日香ピアノリサイタル

いい演奏会だった。飯野明日香は東京藝術大学ピアノ科、パリ国立高等音楽院ピアノ科とフォルテピアノ科を卒業し、さらにブリュッセル王立音楽院ピアノ科マスタ-コ-スを修了した。その後も内外で幅広い演奏活動をしている。
輝くような知性とセンスを持ったピアニストで、集まった聴衆も通常のリサイタルよりワンランク上のように見えた。さほど知名度が高くなくても、わかる人には不思議にわかって、集まって来るものなのだろう。
曲目はエシュケシュ『二重の戯れ』、フォ-レのバラ-ド作品19、プ-ランク『15の即興曲』より4曲、『イタリア風奇想曲』、ロパルツの夜想曲第1番、メシアン『幼子イエズスにそそぐ20のまなざし』より4曲。いずれもフランスの伝統に則った曲、洗練された演奏で、技術的に精神的にもよく磨かれ、感動豊かだった。特にフォ-レ、プ-ランクは密度の高い好演奏。
現代作曲家のエスケシュは、浅学にして初めて聴いたが、まさしくフランス的な美意識を受け継いだ有能な作曲家だと感じた。もちろんそう感じさせたのは演奏者の功績。フランスの流派を継いだロパルツも曲の性格をよく把握した好演奏だった。メシアンも決して悪くはなかったが、私の好みから言うとやや軽く弾き流されたような不満もないではなかった。もう一歩踏み込んだ厳かさが欲しかった。

(11月4日 東京文化会館小ホ-ル) <平野浩氏>

2005年11月号 月刊「ショパン」

2020年8月号 月刊「音楽現代」

和の歌―日本の歌によるピアノ作品集
音現新譜評 現代曲・その他 準推薦

[平川加恵/ずいずい、川島素晴/白河踊りメタモルフォーゼ、小出稚子/うさぎのダンス、篠田昌伸/ゲートキーパー、挾間美帆/コラール、金子仁美/日本の唱歌「雪」による変奏曲、法倉雅紀/茜草指第3番、鈴木雅明/いそいそパラフレーズ、他]飯野明日香(P)[19]
カメラータ・トウキョウ CMCD-28373

ピアニスト飯野明日香による、日本現代音楽界の中堅どころ10名に、唱歌や童謡といった日本の歌を素材とした小品を委嘱し集めての1枚。かつて高橋アキがリリースした、現代音楽作曲家による「ハイパービートルズ」を思わせる取組みである。高橋の場合と比べ、選ばれた作曲家に高い技術力をもったアルチザン的な作家が多い点(独自語法で知られる川島素晴やジャズで活躍する挾間美帆もまた、基本的には職人的技術の人である)に、飯野の音楽観/響きの嗜好が垣間見える。アンコールにさらりと弾けそうな平易なものから、技術的にかなり骨のあるものまで、「お題」に対する各作曲家のスタンスも様々。飯野は美しい音色で、各曲の違いを弾き分けている。

<石塚潤一>

2020年8月号 月刊「MOSTLY CLASSIC」

和の歌―日本の歌によるピアノ作品集/飯野明日香
MOSTLY CLASSIC 2020年8月号

●平川加恵:ずいずいFantasy●川島素晴:白河踊りメタモルフォーゼ●小出稚子:うさぎのダンス●篠田昌伸:ゲートキーパー[「通りゃんせ」より]●挾間美帆:コラール-「からたちの花」メロディーによる●金子仁美:日本の唱歌「雪」による変奏曲、他
飯野明日香(ピアノ) (カメラータ)CMCD-28373

耳慣れた日本の歌から作曲家が趣向を凝らした新作
楽しい現代ピアノ作品集。ピアニストの飯野が日本の歌による作品を委嘱し、10曲まとめて録音しており、1曲を除いてすべて昨年の作。「ずいずいずっころばし」や「うさぎのダンス」など耳慣れた日本の歌が、各作曲家の個性を活かしながらメタモルフォーズされていく。みな趣向を凝らし、嬉嬉としてチャレンジしている姿が聴き取れて愉快だ。原曲の路線をあえて引っ張るもの、自分の創作の脈絡に乗せるもの、いずれもハズレなし。

<長木誠司>

2020年7月号 月刊「レコード芸術」

2020年7月号 「月刊stereo」

『和の歌―日本の歌によるピアノ作品集』
stereo 2020年7月号 今月の優秀録音盤
●飯野明日香(ピアノ)
カメラータ・トウキョウ CMCD28373

声楽と思うようなタイトルだが、現代作品の演奏をライフワークの一つとして活動するピアニスト飯野明日香による作品集、全10曲。SNの高い透明度と解像度が明瞭で、きれいにコントラストのはっきりした一級のサウンドで描かれている。音の魅力がアルバムの価値をとても洗練された音色に高めている。飯野は2014年度レコード・アカデミー賞を現代曲部門で受賞。アルバムの内容は新世代の日本を代表する10人の作曲家が、このCDのために制作した新曲で構成されている。曲目には懐かしい童謡を感じる部分もあるが、新鮮なピアノ曲として流れ伝わってくる。

<福田雅光>

2020年6月9日(火) 「日本経済新聞 夕刊」

ピアノで奏でる、十人十色の日本歌 飯野明日香「和の歌~日本の歌によるピアノ作品集」

■飯野明日香「和の歌~日本の歌によるピアノ作品集」(カメラータ・トウキョウ)
現代作品の演奏をライフワークとする気鋭のピアニストが、全曲委嘱新作の録音に挑んだ。
川島素晴、挾間美帆ら若い世代中心の作曲家10人が、童謡や唱歌など日本の歌からインスピレーションを受けて書き下ろした。1曲目の「ずいずいFantasy」の冒頭から、飯野の思い切りの良い打鍵で音楽の世界に引き込んでいく。乱舞へと至る「白河踊りメタモルフォーゼ」、愛らしさがのぞく「うさぎのダンス」……。多彩な表現から、奏者自身が新しい作品との出合いを楽しんでいるのが存分に伝わってくる。「夕焼け小焼け」が街のあちこちのスピーカーから流れてくる情景から創作された「夕空の泉に」で締めくくる曲順も、ストーリー性があって面白い。(西)

2020年6月1日(月)「秋田魁新報 朝刊」

【飯野明日香/和の歌 日本の歌によるピアノ作品集】
カメラータ・トウキョウ、CMCD28373。3080円

収録曲のユニークさが群を抜く。現代作品の演奏に定評のあるピアニスト飯野が、挾間美帆や、山田武彦らそうそうたる作曲家10人に委嘱した新曲で構成。「通りゃんせ」「からたちの花」といった唱歌や童謡を基に書き下ろされた作品は技巧が凝らされ、独創的。
飯野の多彩な表現力が光る。

2020年5月21日(木) 「読売新聞 夕刊」

2020年5月号 「月刊ショパン」

2020年5月号 「月刊ぶらあぼ」

和の歌―日本の歌によるピアノ作品集/飯野明日香
ぶらあぼ 2020年5月号

平川加恵:ずいずいFantasy/川島素晴:白河踊りメタモルフォーゼ/小出稚子:うさぎのダンス/篠田昌伸:ゲートキーパー/挾間美帆:コラール―「からたちの花」メロディーによる/金子仁美:日本の唱歌「雪」による変奏曲―3Dモデルによる音楽Ⅳ/法倉雅紀:茜草指(あかねさす)第3番―独奏ピアノのための 他
飯野明日香(ピアノ)
カメラータ・トウキョウ CMCD-28373

現代のフランスおよび日本のピアノ作品をメインに精力的に演奏し続ける飯野明日香。前作「Japan Now」では西村朗や藤倉大らの21世紀作品を中心に発表し話題となったが、4枚目のアルバム「和の歌 WANOKA―日本の歌によるピアノ作品集」は10名の作曲家(金子仁美、川上統、川島素晴、小出稚子、篠田昌伸、鈴木純明、法倉雅紀、挾間美帆、平川加恵、山田武彦)に飯野が委嘱した全新作で構成される。懐かしい唱歌や童歌の断片が聞こえたり、それぞれの個性が煌く異世界へと誘われる10作品。飯野の多彩な表現力、そして現代日本のピアノシーンを知る上でも必聴だ。

<飯田有抄>

2017年9月14日号 「週刊新潮」

2017年9月号 月刊「MOSTLY CLASSIC」

2017年8月 月刊「レコード芸術」

2017年8月号 月刊「ぶらあぼ」

2017年7月20日 読売新聞

2017年7月号 月刊「ショパン」

2017年6月号 月刊「ぶらあぼ」

2015年3月 月刊「レコード芸術」

2015年1月号 月刊「レコード芸術」

2014年5月15日 読売新聞 夕刊

2014年5月号 月刊「ぶらあぼ」

CD フランス・ナウ/飯野明日香
古楽から現代に至る様々なピアノ奏法に精通し、幅広いレパ-トリ-を武器に活躍する期待の新鋭・飯野明日香が、特に力を注ぐのが現代作品の紹介。
フランスを中心に活躍する12人の作品を取り上げた当盤には、彼女の思いが凝縮されている。ブ-レ-ズら大御所から、ブル-ノ・マントヴァ-ニら若手注目株まで、その作風は実にさまざま。変幻自在に表現が変化していくさまは、まるで万華鏡をのぞくかのよう。飯野は、それらの色彩の違いを繊細かつ大胆に掬い取ってゆく。その一方、全体を通じて、独特の空気感を共有していることも、確かに聴いて取れる。何とも不思議な感覚だ。

<笹田和人氏>

2014年5月号 月刊「レコード芸術」 -特選盤-

12人の現代フランスの作曲家による12作品が収録されているが、このうち戦前の生まれは3人のみ。聴いてまず印象に残るのは飯野の音のクリアな響きと、一音の齟齬もない技巧的な確かさである。どの曲もそれぞれ個性的で面白く、作品は聴いたことのないものが多いため楽しめたが、小曲を12曲とは選曲に工夫が欲しい。また演奏の巧みさ、譜面の読みの深さによっているところも多いように思う。ジョラスの曲など、意図的にバラバラにされた構成を演奏解釈の巧みさで補っている。
印象的な曲としてはミュライユの《別離の鐘、微笑み‐オリヴィエ・メシアンの思い出に》(1992)で、ゆったりとした鐘を思わせる和音で開始。たゆたう響きにミュライユの音響が豊に響く。ブーレーズ《天体暦の1ページ》(2005)での冒頭の高音に向かって素早く運動する響きは美しい。飯野のピアノの響きの特徴でもある。音事象の多様な変化の過程が巧みに配置されている曲だが、そこを見事に弾き分けている。ジュラール・ペソン《スペインのフォリア》(97)高音部での音の連打や、様々な音域から発せられる打音が面白い。他にエディト・カナ=ド=シジー、ティエリー・エスケシュなど、挙げるときりがない。
飯野の演奏は躍動する音たちの輝きが美しく、柔らかさと激しさの対照性を活き活きと表わす。音色的な多彩さが以前以上に豊になり、音楽に深みを与えることに成功している。〈佐野光司氏〉

肩の凝らない「フランスの現在」である。1990年代から2000年代までの12曲。著名なひとから、日本では馴染みのない顔ぶれまで、このあたりの作品をまとめて聴くことはなかなかできないから、このなかの作品を含めた3月の東京文化会館での演奏会ともども、いい仕事をしている。全体を通じて、不協和に傾いた、いわゆる耳障りな響きの作品ではなく、聴いてある程度心地よいソノリティの追究を、各作曲家が自らの語法との突合せと、ピアノという楽器の技法的性格に照らし合わせながら行っているという印象だ。現代作品集を聴いているという、特別な感覚なくして聴くことのできる作品が集められている。メシアンをもう少し倍音列に敏感にして作り直したようなミュライユ。ドビュッシー風に始まり、ソナタ時代に比べてフュギュレーションを明らかに華麗にしながらも、一定の流れを作ることを嫌い、素材の切り詰めのなかで多様性を出そうとしているブーレーズ。次第に音楽を拡散していくデュサパン。1曲ごとにさまざまなスタイルを自在に盛り込んで、曲集としての古典的変化を作っているタンギー等々。カンポのように、ひとつの着想を手を替え品を替え、延々と続けていくような作品が「武満徹へのオマージュ」をいう副題を持つのには、ちょっと微笑んでしまう。もちろん皮肉な意味はないのだろうが。飯野のピアノは洗練されたタッチで、華美と抒情と静謐に傾いた「現在」を克明に描いている。〈長木誠司氏〉

〔録音評〕2014年の1月、東京・ヤマハホールでの録音。カメラータ・レーベルの標準となっている無指向性マイク2本のみでの収録で、ピアノの実音と会場の響きがきれいにバランスして聞こえる。マイクのキャラクターか、高域にいくぶんきらびやかすぎるポイントを感じることもあるが、それも収録されている作品群とマッチしているとも言え、仕上がりはとてもよい。〈峰尾昌男氏〉

2014年5月号 月刊「音楽現代」

音現新譜評 CD フランス・ナウ 準推薦
飯野明日香は藝大卒業後パリとブリュッセルに学んだピアニスト。近年は一柳慧作品の演奏で知られており、古楽にも造詣が深い。10年、中島健蔵賞受賞。
当アルバムでは、先月89歳となったブ-レ-ズから、今秋40歳になるマントヴァーニまで、現役のフランス人作曲家12人の小品が集められている。
どれも誠実な読譜に基づいた美しい演奏であり、現代作品によるフランス音楽小品集としては申し分ない出来。タンギ-作品の演奏水準などは、他に求めえない優れたものといえよう。反面、「速度」に憑かれた近年のブ-レ-ズの切迫感や、ペソンの刺すような音色感といった過激さは、洒落たアルバムの統一感の陰に隠された。その点のみが少々惜しまれる。

<石塚潤一氏>

2014年5月号 音楽の友 今月の注目盤

先にリリースされた「一柳慧ピアノ作品集」で注目された飯野明日香が、得意とするフランス現代のピアノ曲に焦点を当てた「フランス・ナウ」[CT-CMCD28302]をリリースした。ミュライユ、ブーレーズ、デュサパン、タンギー、アミ、マントヴァーニなど現代の12人の作曲家に焦点をあてたプログラムである。透明度の高い、クリスタルのような音が各作品を生き生きと歌っており、耳を快く刺激する。美しい、感性を刺激してやまないアルバムである。

<諸石幸生氏>

2014年4月17日(木)読売新聞 夕刊 -特選盤-

まず狙いがいい。最先端のフランスの現代音楽をまるでポップスのアルバムのように12曲並べるという構成。大御所ブーレーズから1974年生まれのマントヴァーニまで、それぞれに個性的ながら、しかしフランス風のソノリテ(響き)という意味で共通した音楽である。 飯野明日香のピアノは、これらを猫のように機敏に、ハープの残響のような繊細さとカリッとクリスピーな音色を使い分けながら、鮮やかに処理していく。ジャケットのアートワークのセンスの良さなども含めて、むしろ今までは現代音楽はちょっと………と敬遠していた人にこそ薦めたい。〈沼野雄司氏〉

2014年4月14日(月)朝日新聞 夕刊 -推薦盤-

花火かネオンか。フランスのピアノ音楽ならではの光と影の瞬間的明滅。そこを飯野が鮮やかにとらえる。ピンぼけなし。濁らずクリア。暗い響きも超高性能の暗視カメラのように鮮明に。名アンソロジーの誕生。〈片山杜秀氏〉

2012年12月号 月刊「ぶらあぼ」

磨かれた技巧と豊かな感性。近年、一柳慧作品の演奏で注目されているピアニストの飯野明日香が満を持してリリースした一枚である。作曲家自身が名ピアニストである一柳作品にはピアノを非常に多彩に聴かせる手法が貫かれているが、飯野は1970年代から2000年代までの一柳の作品世界を巧みに表現している。「タイム・シークエンス」のメカニカルな切れ味のよさ、「限りなき湧水」の多彩な響きの使い分けなど、聴きどころも多い。白眉は作曲家と共演した2台ピアノ版の「パガニーニ・パーソナル」。マリンバとピアノ版も名曲だが、2台ピアノの名作がまたひとつ加わったように思われた。〈伊藤制子氏〉

2012年12月号 月刊「音楽の友」 Disc Selection

一柳慧の「ピアノ作品集」〔CM-CMCD28269〕がリリースされた。美しい音を求め、美しい音の織物を編み出してきた作曲家といいたくなるほど、一柳のピアノ音楽の世界は詩的である。冴えわたる感性が織り成す世界は、聴き手の感受性もしなやかに解きほぐすかのようである。飯野明日香のピアノが共感にあふれており、使命感とともに喜びを感じさせるところがまたいい。〈諸石幸生氏〉

2012年12月号 月刊「レコード芸術」 -特選盤-

一柳慧は自身がピアニストであるので、ピアノ曲における技巧的な構成が実に上手い。ピアノによる表現が巧みなのだ。そして飯野明日香の演奏は、それにますます磨きをかけて実に素晴らしい世界を拓いた。音の輝きが一粒一粒にいたるまで磨き抜かれた陰翳として伝わってくるのだ。7曲が入っているがいずれも見事な曲であり演奏である。
《限りなき湧水》(90) の静かに出る開始は、湧水の姿をみるかのような名演だ。録音の良さもあってかピアノの輝き、音のニュアンスの様々な姿の多彩さが浮き上がってくる。
一柳慧の作法のひとつに2つの異なった時間が並行して流れるというものがあり、それによる作品がいくつかある。《インター・コンツェルト》(87) の第1曲はその例だが、また第2曲〈静寂の彼方へ〉や《ピアノ・ポエム》(03) では、スタティックな時間を、動的な時間との対照の中で浮き上がらせており、佇む音、輝く音など音の様々な姿が聴かれる。《イン・メモリー・オヴ・ジョン・ゲージ》(93) など飯野の演奏では音がひとつひとつ異なった表情で現われ、その響きの落差に幻惑されるような気持になる。
2台ピアノの《パガニーニ・パーソナル》(82/2011) は指揮の岩城宏之に弾ける程度のマリンバ用の作品だったが、今回の2台ピアノ版は技巧的に著しく難しくなっており、編曲というより新曲だ。飯野と一柳の丁々発止の弾き合いも見事だ。〈佐野光司氏〉

一柳慧も来年傘寿を迎える。湯浅譲二と並んで年齢を感じさせない風貌からすると驚くべきことだが、9月には新作オペラの初演があり、また10月終わりにも河合拓治による一柳の《ピアノ音楽》の7曲連続演奏があったばかりで、このところ話題に事欠かない。河合が演奏したのは不確定性時代の1961年までの奔放きわまりない作品群であったが(あれはぜひなんらかの形でリリースしてはしいもの)、このCDにはそれをまさに補完するように、70年代以降、ミニマル作風に転じてからのこの作曲家のピアノ作品が集められている。全曲ではなく、《ピアノ・メディア》や《クラウド・アトラス》のような代表作が入っていないが (1枚だし)、四半世紀以上にわたる創作が俯瞰的に聴かれるのはまたとない企画であり機会だろう。一聴して惹かれるのは、飯野が一柳のソノリティを至極ていねいに音にしていること。曖昧さなく、研ぎ澄まされくっきりとした音像で紡がれる作品は、《タイム・シークエンス》のような疑似機械的な反復運動でも、《限りなき湧水》冒頭のようなメシアン的な低音と高音の対照性においても、常に硬質の詩情と乱反射する色光を産み出しており、むしろCD自体を現代曲ではなく、器楽曲担当の評者のように委ねたい誘惑に駆らせる。2台ピアノ用にアレンジをされた《パガニーニ・パーソナル》では、一柳自身も一方を担当しており、相変わらず達者な演奏を聴かせている。〈長木誠二氏〉

〔録音評〕ノイズ成分を全く感じさせないため、透明度が高く濁りのない響きの柔らかさを聴かせる。スタインウェイとベヒシュタインのふたつの楽器を使って収録されている。残響成分の透明度も高く十分な空間性も表現されているが、直接音のフォーカスが甘くなることはなく、明瞭な表現には多すぎず、少なすぎずの残響成分の質の高さが大きく貢献していると言えそうだ。〈石田善之氏〉

2012年11月12日(月)朝日新聞 夕刊 -推薦盤-

一柳慧:ピアノ作品集 飯野明日香(カメラータ)

現代曲だが身構えさせず、すがすがしい喜びと憩いの空間へと聴き手を誘う。パリで研鑽を重ねた飯野が生き生きと演奏、感動も初々しい。2台ピアノ版では作曲家自身と共演、笑みすら引き出している。〈諸石幸生氏〉